新卒採用のもたらす価値

「日本の企業は異常に新卒採用が好き」。
「日本の企業は新卒一括採用をさっさと辞めるべき」。

そんなオピニオンは、もう耳にタコ、いや、目にタコ?が出来るくらい目にしてきたが、当の新卒採用は一向に縮小する兆しを見せない。


今年も、弊社に新卒の新人が入ってきた。
新卒採用ってお祭りだよね。
あんなに多くの時間と金と手間と人手を掛けて採用を行い、内定〜入社までの手厚いもてなし。
入社後も暫くは「お客様」として時間と金を掛けて教育を行う。
片や、即戦力としての中途採用なんてさらっとした説明の後に自然と業務に入っていく。


どちらがコスパが優れているか、比べるべくもない。


なぜ、日本の企業はこれほど新卒採用を重視するのか。
かつて(今も?)三年で辞めると言われた新卒がそれほどに企業に価値をもたらすものなのか。
それとも、「新卒採用を行う」ことがステータスなのか。
それは、誰に対するどのようなステータスなのか。
ここまで時間と金と手間と人手を掛けお祭り騒ぎをしてまで新卒採用を行う意義、目的は何なのか。をちょっと考えてみた。


洗脳しやすい

社会で働いた経験がなく、頭真っ白で何にも染まってない新卒は、他の組織の中での「常識」を得た中途入社よりも明らかに会社の「常識」を植え付けやすい。
実務上での教育コストがかかる一方で、会社の将来を担う幹部候補を育てるに当たっては、頭空っぽな新人であることは大きなメリットとなる。
その会社の常識やルールに多少の違和感を感じても、コレが社会の常識か、くらいに思って飲み込んでしまう素直さが魅力。
そのためなら、実はもはやなんの意味もないとオトナは皆わかっている各種セレモニーなんかも、やる気満々な入社直後の彼らのモチベーションを更に上げるという意味で、意義があるのだろう。


平均年齢

実はコレは結構大きな意義を持っているのではあるまいか。
人は一年に一つ歳をとるから、企業の平均年齢も同様に上昇する。
イノベーションを起こすためには(起こし続けるためには)、若い力が不可欠だ。
年齢を重ねると、知識と経験を蓄える反面、柔軟な発想に乏しく、新たな挑戦から遠ざかってしまう。
世の中の新しいトレンドに敏感で、新しい価値観を持つ若者は、組織の活性化にも必要だ。
更に、組織が大きくなると、その分大量の若者を入れなければ、平均年齢はドンドン上がり、また、若者が大きな声を上げにくい環境を作ってしまう。
かつて集団就職を経て大きくなった大企業は、もはや新卒一括採用をやめることすら出来ないのかもしれない。
そしてそれが、大きな組織、即ち「誰もが名前を知る大企業」としてのステータスとなるのやも。。


マーケティング

実はコレが最も大きな理由なのではないかと思っている。
採用活動で対面した学生は、仮に採用しなかったとしても、お客様予備軍となる。
BtoCの事業では直接自社の商品を購入してもらう顧客となりうるし、BtoBの事業では就職後に取引を行う相手と成り得る。
そして、社会に出る大学生の殆どは、就職活動を経て社会人となる。
ちょっと古い資料だが、大学卒業した人口は2010年で32.9万人。


http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3165.html



しかも彼らはCMや広告をさらっと見るのではなく、どんな事業をしているのか、どんな商品やサービスを持ってるのかといった企業研究などというものを(「意識の高い」学生ほど)熱心にやってくれる。
これはかなり有望な顧客予備軍となるのだろう。
優秀な学生を得ることが最大の目的ではあるが、マーケティングと捉えれば多少お金を飛ばしても意義はあるというわけである。
大概の学生は楽に内定を取りたいと思う反面、自身が成長できる場を求めているため、多少は関門を用意してあげないと、企業側も選んでもらえない。
苦労して得たものは手放したくない心理を植え付けるためにも、無駄に何度も面接したり課題を与えたりするわけである。
(おそらくコレは人材コンサルなんかの戦略であり、企業側はその提案のままに実施しているのであろうが。)




理由は1つではなく複合的なものではあるが、大別すると上記が主であろう。
新卒一括採用の弊害については種々あるが、大企業が新卒採用をやめられない事情と、世界一お気楽な日本の学生、グローバル化しきれない日本企業という環境を見れば、やはりしばらくはこの状況が続きそうではある。
日本で働きたい外国の学生は多くいるだろうが、彼らを使いこなせる管理職も多くない。
この状況を打破し、新卒一括採用を終わらせられるのは、中小ベンチャー企業の採用手法にかかっている。
もはや新卒は大企業しか取らない、となったときの学生の動向が興味深いものである。